(上)TVドラマ「商道」、(下左)韓国語版 P.120、(下右)日本語版 P.19


★韓国一般の「蕩減」の使い方を知るために韓国の検索エンジンで「탕감」を検索すると常に多数ヒットします。
また書籍の中にも登場します。よく観察すると韓国において下記二つの相反する使われ方があることが分かります。
即ち、原義通りの使い方とそうでない使い方、いわゆる俗語(スラング)です。


【1】正規の例

下記は韓国のニュース記事に載った「蕩減」の例です。

「生計型信用不良者、元金蕩減考慮しない」20050114(Fri)
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3月から施行される政府の生計型信用不良者救済対策の輪郭が現れた。元金蕩減(帳消し)ではなく金融機関の利子の免除や償還期間の延長により責任を分担することになるものと見られる。…(中略)…

政府はこれらを救済する過程で道徳的な緩みが生じないよう、元金は蕩減しないことを原則として立てた。また、返済能力のない人にお金を貸出した金融機関も責任を負うことにする方針だ。
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これは債権者側が「蕩減する(帳消しにしてやる)」と言う原義通りの意味で使われております。


【2】俗語(スラング)の例

韓国語版「商道」 第一巻 P.120・11行目(崔仁浩著 全5巻)より ▲上の写真
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「とにかく二十歳の若い年に父を失ったイム・サンオクは目の前が真っ暗になった。特に記憶によるとイム・サンオクのお父さんは死ぬ時にとてつもない借金を残して死んだと伝えられている。しかたなく、イム・サンオクは父が借金した商店に店員として入ってその借金を蕩減(帳消しに)するしかなかった。」
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こちらは原義に反して債務者側が「蕩減する」と表現しております。本来債務者側に借金を帳消しにする権限はないのに。
この韓国語版の「借金を蕩減(帳消しに)するしかなかった」(P.120)を日本語版「商道〈上〉」(P.19)で見ると、
「借金を帳消しにしてもらうほかなかった」という表現に校正されております。日本語版の方が原義通りです。
 
これはどういうことなのでしょう? これが韓国特有の俗語(スラング)なのです。
 

【3】韓国語教育の第一人者に聞く

韓国語教育の第一人者と言われている金東俊神田外大名誉教授(文学博士。NHKハングル講座元講師)に伺ってみました。

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質問者 :貸した側が「蕩減する(帳消しにしてやる)」と言うのであって、借りた側が「蕩減する」という言い方はしないですよね。

金教授:しない。

質問者 :では、「商道」のこの表現、「蕩減するしかなかった」というのは、これを貸した側が言っているのであれば分かりますが、借りた側が言うのは反対ではないでしょうか? 「탕감 해 줄 수 밖에 없었다(蕩減してもらうしかなかった)」と言わなければならないのではないですか?

金教授:日本語的表現ではね。でも韓国では両方使います。「탕감 하다(蕩減する)」と書けば、それは(債権者、債務者)両方とも使います。「탕감 해 줄 수 밖에 없었다」とまでは言いません。

質問者 :両方ともですか?

金教授:そうです。
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★たった今「借りた側が『蕩減する(帳消しにしてやる)』という言い方は」「しない」と言われたばかりなのに両方とも使う?
この後何度も問い直したのですが答えは同じでした。
韓国語では敢えて「탕감 해 줄 수 밖에 없었다(蕩減してもらうしかなかった)」という表現まではしない、それは日本的表現ということでした。


■ 上記に対する米国NY州統一神学校名誉総長のコメント
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「私もアメリカで韓国語を文法的に厳密に勉強して来たので全く同じような問題にぶつかりました。韓国語の他動詞の受動態が見つからない場合があったのです。
英語の他動詞は全て能動態と受動態の区別がはっきりしてしています。日本語もそういう点では英語に近いかも知れませんね。

それで韓国語と日本語の両方に通じている36家庭の韓相吉先生に訊きに行ったところ、韓国語には他動詞の受動態がない場合があるといわれました。
それで、韓国語は文法的に100%厳密でないのでやはり詩的な言語として天国で使われるのだな、というのが私の結論でした。」
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文師の発言の中で他にも同じようなスラングがあります。

「恩赦に引っかかる」、「堕落観念に徹せよ」… この本来の意味とは真逆の言い方は内部でよく知られております。

このことを信者達がよく理解していれば問題ないかも知れませんが、これを英語初め外国語に翻訳するとき、校正することは不可欠です。
ところが統一教会では校正が全くなされず、文字通り訳されたため真逆の意味に記載され、流布され続けているのです。

そこでまた金東俊先生に英語版原理講論(DIVINE PRINCIPLE)を見て戴きました。
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質問者 :英語版原理講論ではこの「蕩減」の部分が「indemnity」と訳されております。
    これは「賠償」という意味になります。

金教授:ああ、それはない。
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★実は、ここが筆者が最も問題視する重要なポイントなのです。
即ち、ここで「蕩減」という文字を「indemnity(賠償)」と訳してしまったために、「DIVINE PRINCIPLE」から完全に「赦し」という言葉がなくなってしまったのです。

「『蕩減復帰原理』には『赦し』と『償い』の両面がある。」(史吉子氏)

「人間が5%の条件を立てる前に神は95%の御苦労を既になさっている。」(文鮮明師)

「DIVINE PRINCIPLE」からは神の95%の「赦し」部分が完全になくなり、人間の「償い」部分だけになってしまった。
キリスト者達に対して「キリストの贖いによる大いなる赦しに対して人間がどのように歩むかということ、そこで人間の責任分担を明確に認識しなければならないこと」それを提唱しなければならない立場なのに、その議論以前の旧約的、或いは仏教的段階の救済観に陥ってしまっているということです。
  

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