蕩減の由来(聖書的根拠)

【1】聖書的根拠

(1) 野村健二著「天下の愚論-『洗脳の時代』を裸にする」大学と理想83年4月号より
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「『蕩減』、正確には『蕩減復帰原理』と言う。この用語は講論後半の最も中核となる重要な概念… 『蕩減』という言葉など聞いたこともないと言われる方も多いと思うが、これはもともと韓国語でごくありふれた言葉なのである。精解『韓日辞典』(金素雲編、高麗書林)の917頁には次のように書かれている。

『蕩減』=借金を全部帳消しにすること、借債を悉く免除してやること、remission(赦し)

  ちなみに、聖書に書いてあること以外は認めないという厳格な立場を採るファンダメンタリスト(根本主義者)の方々のために蛇足を付け加えれば、たとえば、マタイ福音書18章27節の『僕の主人はあわれに思って、彼をゆるし、その負債を免じてやった』の『負債を免じて』という箇所が、韓国語では『蕩減(ハヨ)』と訳されている。
 これを見ても『蕩減』という言葉が、一見耳慣れないようでも、韓国では日常用いられている、ごく普通の言葉であり、かつ聖書に忠実に従った用語であることがお分かりであろう」
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(2) マタイによる福音書 第18章23節~35節
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ペテロがイエスのもとにきて言った、
「主よ、兄弟がわたしに対して罪を犯した場合、幾たびゆるさねばなりませんか。七たびまでですか」。
イエスは彼に言われた、「わたしは七たびまでとは言わない。七たびを七十倍するまでにしなさい。

それだから、天国は王が僕たちと決算をするようなものだ。
決算が始まると、一万タラントの負債のある者が、王のところに連れられてきた。
しかし、返せなかったので、主人は、その人自身とその妻子と持ち物全部とを売って返すように命じた。…①

そこで、この僕はひれ伏して哀願した、『どうぞお待ちください。全部お返しいたしますから』。)
 
僕の主人はあわれに思って、彼をゆるし、その負債を免じてやった。…②)
 

(그 종의 주인이 불쌍히 여겨 놓아 보내며 그 빚을 탕감(蕩減)하여 주었더니)
(Then the lord of that servant was moved with compassion, and loosed him, and forgave him the debt.)

その僕が出て行くと、百デナリを貸しているひとりの仲間に出会い、彼をつかまえ、首をしめて『借金を返せ』と言った。
そこでこの仲間はひれ伏し、『どうか待ってくれ。返すから』と言って頼んだ。
しかし承知せずに、その人をひっぱって行って、借金を返すまで獄に入れた。

その人の仲間たちは、この様子を見て、非常に心をいため、行ってそのことをのこらず主人に話した。
そこでこの主人は彼を呼びつけて言った、

『悪い僕、わたしに願ったからこそ、あの負債を全部ゆるしてやったのだ。
わたしがあわれんでやったように、あの仲間をあわれんでやるべきではなかったか』。…③)

(이에 주인이 저를 불러다가 말하되 악한 종아 네가 빌기에 내가 네 빚을 전부 탕감(蕩減)하여 주었거늘)
(Then his lord, having called him, said to him, O thou wicked servant, I forgave thee all that debt, because thou desiredst me)

そして主人は立腹して、負債全部を返してしまうまで、彼を獄吏に引きわたした。…④
あなたがためいめいも、もし心から兄弟をゆるさないならば、わたしの天の父もまたあなたがたに対して、そのようになさるであろう」。

※ 新聖書辞典(いのちとことば社)
  1タラントは6000デナリ。1デナリは「労働者、一日分の賃金」。
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(3) 「蕩減復帰原理」李相憲氏の定義より
李相憲氏:文師が生前「私の最後の仕事は『原理』(原理の最終本。未完に終わる。)を書くことだ」としてそれを任せられていた人物。

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王様は『もし一万タラントの借金を返すことが出来ないのであれば、お前と妻子と持ち物全部を売って返しなさい』と命じました。それらを全部売っても一万タラントにならないかも知れないが、それで一万タラントの借金と相殺してやるという意味です。これも蕩減を意味します。…(減額)

ところが僕がひれ伏して『必ず借金を返しますから、暫くお待ち下さい』と言って哀願しました。その姿を見て気の毒に思った王様は『お前の心掛けは殊勝だ。負債を免じてやるから帰りなさい』と言って彼を赦してやったのです。これもやはり蕩減なのです。…(全額免除)
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【2】考察

一日分の賃金を1万円と仮定すると一万タラントとは6000億円という途方もない数字になる。
  これは1タラントの間違いか?とも思われるが、聖書の表現には極端な表現が多いとも言われている。

上記「蕩減」の例として上げられた①と②は一見すると、①は「自分自身と妻子と持ち物全部を売る」を条件とする「条件付き赦し」、②は「無条件の赦し」と思える。
しかし②から③④への展開を見ると、主人は無言の内に債務者自身にも他者への「あわれみ」と「ゆるし」を実践することを条件としていたことがわかる。

★御言葉 16万日本女性幹部特別修練会/韓国中央修練院 1994.3.17
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 蕩減というものは何か?お金を借りて負債があるのに返済する力がないのです。いくら返済しようとしても、生涯をかけて返そうとしても返せないという場合には、債権者、お金を貸してくれた人が特別に容赦してくれ、返すべきお金の10分の1を支払ったなら返したことにしてくれる、ということができるのです。
 
ところがそこには条件があるというのです。10分の1にしかならないので、残り10分の9は、謙遜だとか、背後に何かをして債権者を感動させる立場に立たなければいけないのです。そうでなければ、蕩減が成立しないということです。
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※ ところが既成教会はこれを「『ゆるしの条件』と解釈することは間違い。その逆で、どれだけ多くの罪を赦されたかを知っているなら人を赦すことができるはずだ」(中川健一牧師)とする。
 神の「ゆるし」の前に「人間の責任分担」があることを知らない、悟れないのである。

韓訳、英訳では、「あわれみ」が「体恤(compassion『苦難を共にする』が原義)」、「ゆるし」が「蕩減(remission)」となっている。
この例え話の出発点は「七を七十倍するまで『赦しなさい』」である。ここから「主の祈り」の「我らに罪を犯すものを我らが赦す如く、我らの罪をも赦したまえ」更にキリスト教の最大メッセージ「敵を愛し、迫害するもののために祈れ」に繋がっていく。この「敵を愛せ」が韓訳で「怨讐を愛せ」である。

 


【3】韓国語訳「蕩減」の特殊性

様々な国語で訳された「ゆるし」の中で韓国語の「蕩減」だけが特殊な意味が込められていることが判る。
即ち、一般社会でも払いきれない程の大きな負債を抱えてしまった人が負債を精算する場合、債権者は債務者の全財産を差押え、残りは返済額に甚だ不足していたとしても、それで帳消しにしてしまうということがよくある。

全てを捧げても負債額の5%にしかならないとしても、残り95%を神が負担し赦して下さるというのが文師が説く蕩減復帰原理。
キリストの救いを知るために、人間の責任分担を理解しなければならないとすれば、様々な言語の中で韓国語の「蕩減」という言葉は理想的と言えよう。


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